Jun 5, 2023
私が現在開発に携わっているプロダクトは、サービスインから10年経ち、多くのユーザーに支えられ、会社の売上の大半を占めている。プロダクトとしては成功していると言って良い。しかしこのプロダクトにはビジョンがない。プロダクトのビジョンは、そのプロダクトの成功において不可欠なものだ。一方で、ビジョンがないにも関わらず成功しているプロダクトがこのように存在する。この矛盾にも見える状況について考えてみた。
「ビジョンはない」と言ったが、実際には「ビジョンは明文化されていない」というのが正確な表現かもしれない。明文化されていないだけで、実はビジョンは存在しているのではないか。そう考えてみると、この矛盾に見える状況は、プロダクトの成長に伴う体制規模の拡大が生み出したものであると説明できそうだ。
プロダクトの成長期で体制規模が小さいうちは経営層などトップの声が直接メンバーまで届きやすい。そのため当時は、狙う市場、ユーザーのニーズ、必要な機能などプロダクトの方向性が語られるたびに、ビジョンに相当するものがメンバーそれぞれに暗黙知として形成されていたと考えられる。実はみんなの心の中にビジョンはあったということになる。(実際はそのような暗黙知をビジョンとは言わないんだと思うが)
やがて暗黙知に頼ったビジョンは上手く機能しなくなる。プロダクトが成長を重ねて体制を拡大していく過程で、トップの声が直接メンバーに届かなくなり暗黙知的なビジョンの共有が難しくなる。その結果「ビジョンはない」と認知される状況に陥る。
ビジョンの明文化は、プロダクトが成長し、体制が拡大する過程で特に重要になると言える。プロダクトが成長期を越えた現在、さらにチームの数やマネジメントの階層が増えて、プロダクトの運営・開発の分業化は進んでいる。その中で自分の業務がどれだけプロダクトに貢献できているのか手応えが得られにくくなり、意思決定の透明性が感じられなくなり、プロダクトへのエンゲージメントが下がっている。これはまだ体制が小さかったときには発生していなかった問題であり、今ではプロダクトが抱える大きなリスクになっている。この問題の解決のために、今こそビジョンを明文化するべきだ。ビジョンが形式知として共有されることで、分業が進みスケールされた体制においてもチームに一体感が生まれてイキイキと仕事に取り組むことができるようになる。
成功したプロダクトでもビジョンの明文化に取り組むことは重要である。体制規模が小さいうちはビジョンがなくても上手くいくこともあるが、プロダクトの成長に伴い体制が拡大する過程でビジョンが必要となる。今こそ、ビジョンの明文化に向けた取り組みを始める時である。